自治体の研修制度のメリット・デメリットについて

農業研修生を募集している地方自治体は、かなりの数、存在しています。このルートを通って新規就農する人は、多いと思います。

地方自治体の研修制度というのは、大きく2つに分けることができます。

一つは、自治体は資金を出すだけで、実際の研修は農家で行うというもの。自治体では、独自の研修施設を所有していないのです。

もう一つは、自治体が研修施設を用意しており、自治体職員が指導して、農業研修を行うタイプの施設です。どちらかといえば、後者のタイプのほうが、自治体の研修制度の大半を占めています。

2パターンの研修がありますが、どちらにしろ、自治体の研修制度のメリットを挙げれば、まずは公的な信用がつくということです。農家にいきなり飛び込んで、一従業員として移住してくる者よりも、自治体の公的な農業研修生という立場の者のほうが、地域の人も受け入れやすいものです。

また、自治体としても、制度を使って都会から呼んで来たのですから、町営住宅を世話してくれたり、広報に載せて紹介してくれたりします。農業法人や、農家での研修では、自治体が家まで世話してくれるとは限りません。

ただし、自治体の研修制度には、デメリットも存在します。その点については、2タイプに分けて説明させていただきます。


自治体の研修制度(農家派遣タイプ)

このタイプの研修は、自治体から研修費用として、月10万円~15万円程度の資金をもらい、農家で研修を受けるというものです。

研修といっても、大体は手取り足取り教えてくれるわけではなく、一従業員として働くというような形になります。

この研修の良いところは、農家の実際の作業を学べるということです。農業学校のように、利益を出す必要のない農家ではなく、実際に農業で生活している方々ですから、現場の生きた知識を学ぶことができます。

しかし、欠点もあります。それは、農家を選べないこともあるということです。ある町の農業研修生となった場合に、その自治体での受入農家が数多くあればいいですが、一農家しかなかった場合には、その農家に行かざるを得ません。

また、農家側の事情によって、別の農家での研修に回されてしまうことも、あるかもしれません。

できれば「A町の農業研修生になる」と決めて、その自治体の受入農家の中から選ぶという形態よりも、「自分が研修を受けたい農家」がまず存在し、「その農家研修を受ける場合に使える町なり県なりの研修事業を探す」という流れのほうが、良い研修が受けられると思います。

つまり、通常の農家研修の一つのタイプとして、自治体からも補助をもらいつつ研修を受けるタイプがある、というように考えるべきなのです。

「自治体選び」から入るよりも「農家選び」から入って、その農家が所属している自治体で使える制度がないか、というように考えたほうが、良い研修が受けられると思います。

「自治体選び」から入ってしまうと、大抵の場合は、研修先の選択肢が少なすぎるからです。

自分は有機無農薬野菜をやりたいのに、自治体での研修受入農家は「トマトの慣行栽培(農薬を使う一般栽培)」「キュウリの慣行栽培」「イチゴの慣行栽培」の三択しかなかった、というような事態になってしまいます。

そのような事態に陥らないためにも、自治体選びから入るよりも、研修先選びから入るようにしたいものです。


自治体の研修制度(施設保有タイプ)

自治体からお金をもらい、一般農家で働くといった研修制度は、自治体の研修制度の中では少数派です。

多くの自治体の研修制度では、自治体が研修用施設を用意しており、そこでの研修を受けることになります。
栽培作物は、その自治体での特産物の研修を受けるという形になります。

自治体の研修制度というと、一番しっかりしているように思われるかもしれませんが、実際の農業には役に立たない研修が、ほとんどです。自治体職員は公務員ですから、研修時間は8時から17時、土日は休みという形式が多く、農業の現場とは、大きくかけ離れた研修スケジュールを行っているところも、あります。

こういう研修を受けても、栽培技術は身につきません。

研修を受けるのであれば、その研修制度を既に受けて、専業農家として独立した新規就農者が複数いるような自治体を選ぶべきです。

多くの自治体が、人口減少に歯止めをかけるために、農業研修制度を設けていますが、そのほとんどは、農業で生計を立てるのが困難な地域です。都会出身の専業農家を1人も生み出していないという研修制度もあります。そういう地域の研修は、選ぶべきではありません。

こういう制度を利用することのメリットもあります。

一つは、研修生という身分であることによって、地域の人とのつながりが出来るということです。自治体の人も、頼めばいろいろな農家を紹介してくれます。役場の人間は、田舎では最も顔が広いですから、人脈を有効に利用できるという利点があります。

研修自体は、あまり役に立たないかもしれませんが、1年なり2年なりの研修期間中に、地域の事情がよく分かり、独立就農に際して、より正確な判断を下すことができます。

また、研修を受けつつ、月10万円から15万円というお金が得られるというのも、大きな魅力です。特に、自己資金があまり無いという方でしたら、研修期間中に100万円以上のお金を溜め、それを独立資金にあてるということも可能になります。

また、自治体によっては、研修制度を終えた人にのみ、農地を優先的に斡旋したり、無利子の資金を貸し出したりしているというところもあります。

気を付けなければいけないのは、自治体で農業研修を受けて、研修費用をもらった後で、他の自治体で就農することが出来るかどうか、ということです。

例えばA町で2年の研修を受けて、240万円のお金を支払われたとします。その研修終了後、もっと土地条件のいいB町で就農することが出来るのかどうか、ということです。

結論からいえば、多くの場合、ペナルティはありません。ほとんどの自治体は、研修終了後に、A町で就農することが「望ましい」というような、研修要綱になっています。

ましてや、資金の返還をせずに、他町で就農したという研修生の前例がある場合には、確実にペナルティはありません。私が知る限り、他町で就農したからといって、資金の返還を求められたということは、聞いたことがありません。

だからといって、もともと全く就農するつもりがないのに、自治体での研修を受けることは、自治体の方々にも大変な迷惑をかけることになるので、なさらないでください。研修費泥棒と言われても、仕方ありません。

結果的に、研修中に、その町よりも魅力的な土地が見つかったというのならばいいですが、最初から研修費用だけもらって、違う土地で就農するというような目的では、研修を受けないでください。

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