有機無農薬栽培をしているHさんから農業を始めたい人へ

Hさんは、神戸で8年間、有機農業にたずさわった後高知県の四万十町に移住しました。

現在は、自ら有機無農薬栽培を行うかたわら、農産物の販売・デザインの仕事などをしています。




Q.01 移住前は、どこに住んでいましたか。

神戸の西区で農業をやっていました。



Q.02 移住時の家族構成を教えてください。

移住時には、妻と、子供が1人いました。今は、子供は2人います。



Q.03 現在、農業収入は、どのくらいありますか。

100万円くらいです。



Q.04 現在、農業以外の収入は、ありますか。

250万円くらいです。グラフィックデザインの仕事・企画の仕事をやっています。それと、有機無農薬野菜の生産者チームの農作物を販売することによる手数料・事務費用などです。



Q.05 栽培作物と、栽培面積を教えてください。

30アールくらいです。
その季節に出来る、いろいろな野菜を、有機無農薬で作っています。



Q.06 現在、住んでいる家は、どのようなところですか。

高知に来るときに、大正町に住んでいる友達に、人を紹介してもらって、その人から紹介されました。




Q.07 就農するまで、農業経験はありましたか。

家も農家ではないし、特に経験はありませんでした。



Q.08 農業を志したきっかけは、どのようなことですか。

16年くらい前になりますが、環境のこととか、食の荒廃の問題に心を痛めていたんです。社会に対して、そういう問題を提案するというか、ぶつけていきたいという思いがあったんです。



Q.09 農業研修を受けましたか。

研修は受けていないです。有機農業の世界の先輩方を探し出して、話を聞いたり、そういう方に人を紹介してもらっていました。

最終的に当時、神戸の西区で有機農業を、既に20年くらいやっていた農家さんのところに押しかけて、弟子みたいな形で入ったんです。

手伝いという形ではなくて、近くで自分の畑を借りて、いろいろ教えてもらいながら、自分は自分で生産をして、自分の思う形態で販売していました。



Q.10 当時、どのような販売形態をとっていましたか。

リヤカーに野菜を積んで歩くような引き売りと、宅配との、中間のような形です。もともと、今から35年くらい前に、有機農業の運動や実践が始まったころには、引き売りのような形がメインだったんです。そこから有機農業というのは、産声を上げているんです。



Q.11 現在、どのような販売形態をとっていますか。

神戸にいた8年間の間に、全国的に有機農業界を、うろついていたんですがそのときに有機農業関連の販売・流通に関わる人との、ネットワークが出来ていたんです。
今はそういうルートを通して、東京・大阪をはじめ、都市への有機農産物の流通を手がけている、宅配業者や仲卸業者に納めています。

現在、7軒くらいの農家さんの農作物販売を扱っています。全員、有機無農薬栽培をやっています。



Q.12 高知に移住したきっかけは、どのようなことですか。

神戸にいたので、近畿圏内で就農を目論んでいたんです。しかし、近畿圏内は、相当田舎に行っても、やっぱり都市近郊ですから、ゴルフ場があったり高速道路があったり、県道の拡張工事があったりして、山や畑が不動産化している状態だったんです。

そういう場所で、新たに農業をしたいというのは、受け入れ側としても考えられないという所が多かったんです。

最終的には、もっと僻地で、土地の人が困っているところにしか、新規就農者は入れないという実態を、8年かけてぶつかりながら、分かっていったんです。8年かけてぶつかり続けたというより、ぶつかり続けていたら8年経ってしまったということなんですけれど。

そこに、たまたま高知県の四万十町で農業を始めるという人と知り合うきっかけがあり、意気投合して、それで高知に来ることになったということです。




Q.13 農業について、または農作物の販売について、将来の目標はありますか。

目標にするような販売形態というのは、無いです。

15年~20年前よりは、消費者の消費の形態も、ほんの少しですけれど、真面目になってきていると思うんです。だけどそれは、有機野菜とか、自然のままのものが良いということが、理屈として解りかけているということに過ぎないんです。まだまだ、有機農産物を生産者が安心して生産していけるだけの消費スタイルには、なっていないと思うんです。

自然のまま、いろんなものに身をゆだねながら、出来たままの農作物を評価してくれるような流通になればいいとは思います。自然や環境のことから乖離してしまった、わがままな消費者の歩調に合わせる気はないということです。

そういう消費者の動向を見ながら、どんなふうに売っていけばいいのだろうと考えるような、思考の方法は、していないです。



Q.14 現在、有機無農薬野菜が農作物全体の中で占めるシェアはごく少ないですが、これを拡大していくために、変えていかなければならないことは何ですか。

政治でしょうね。一言で言うと、そういうことなんですが。農業政策とかも含むんですが、教育とか、流通の規制とか、あらゆる分野に関係することです。
農林水産省の管轄である農政だけではなく、特に教育なんか重要だと思います。

今の子供たちに、今の親がすすめている食生活は、大間違いだということをはっきり言えるような教育をしていかないと、いけないと思います。



Q.15 理想とする農業の形とは、どのような形ですか。

数年したら考えが変わるかもしれませんけれど、自分が農業をやり始めてから思い始め、きっとそれが正解なんだろうと思っていることがあるんです。

基本的に農業って、無くてもいいと思っています。
あってもいい農業は、米・麦・大豆・ゴマのような、大量に必要な農作物。そういうものだけで、いいんじゃないかと思うんです。

普段食べるキュウリ・トマト・ピーマンのようなものは、希望があれば必ず決まった大きさの家庭菜園を1世帯に1箇所、貸し与えることが出来るような形にして、そこで普段使う野菜はみんな自分で作る。1億総家庭菜園を、義務づけることはないでしょうけれども。

米とか、大きな面積が要る作物については、それは無理なので、そういう作物についてのみ、農業があるというのが理想じゃないかと、僕は思っています。

そうすれば、自然から乖離している人も、やってみると解るんです。そうはうまいこといかない、ということが。そうなれば「いい天気」という言い方も使わなくなると思います。雨が欲しい、とも考え始めるでしょうし、虫のことについても考えるでしょうし、雑草のこととかも考えるでしょう。いかに自分がアンポンタンだったかということが、それをやることによって、少し解るんじゃないかと思うんです。

換金作物を生産することにより生計を立てるという農業の形は、穀物だけに限っていいんじゃないかと思います。



Q.16 農業について、影響を受けた本・考え方などは、ありますか。

もともと影響を受けたものは、ありません。ですが、自分が始める前に、自分1人で思考していって、いろいろなことを思い固めていく中で出会った人でそういう人はいます。その人の著書に、自分が思い固めていた考えどおりのことが書いてあったんです。そういうことは、ありました。

『やまももの樹に抱かれて~母と子の自然王国~』という本です。(編注:藤本敏夫著。絶版。藤本敏夫著『ぼくの自然王国』も、内容は同じ本)

僕が社会にぶつけていくぞと思っていた、その思いとか、ぶつけていく動機や考え方が、やっぱり正しかったんだという裏付けになった本であり、その著者であったということです。




Q.17 田舎暮らしについて、どのような考えがありますか。

都会を田舎化していかなければいけないと思うんです。都市近郊をはじめとして、田舎が都会化されている流れというのが、いまだにあるんです。

そうではなくて、さっき言った「1億総家庭菜園時代」を実現しようと思えば、都会を田舎化していかなければいけないと思います。

都会の人が田舎暮らしを目指すということについて言えば、悪いことではないと思います。悪いことではないと思いますが、団塊の世代の人が退職金を持って田舎に行くということについては、今、田舎が置かれている状況を改善することには、ならないと思います。

団塊の世代は、割と差し迫った高齢者予備軍であって、田舎はもっと若い人を求めているわけですから。子供も独立して、あとは死ぬだけという夫婦が来たからといって、田舎は喜ばないということを知っておいたほうがいいと思います。

お金を持ってきても、それは地域に落ちる金ではなくて、地域に還元されないその人の単なる貯金ですから。田舎にとっては何もメリットが無いということを知った上で、田舎暮らしを考えてほしいなと思います。

若い人が来る場合には、その土地で食べていける仕事が用意されていなければならないですよね。それは、行政の仕事だと思います。でも田舎の行政はなかなか動かないので、無理でしょうけれど。




Q.18 若い人が、田舎に住み農業で生活していくには、どういう方法がありますか。

全部じゃないですけれど、そういう人の作りたい作り方というのは、たいがい有機農業ですよね。U ターンの人は別ですけれど、I ターンで農業をしたいという人は、有機農業希望の人が多いですよね。

U ターンの人は、親のやっている、農薬をべったりかける農家に、そのままなっちゃう人が多いですけれど。だけど、都市から来る I ターン就農者は、有機農業をやりたいという人が多いですよね。

そういう人は、自分が作りたい作り方を理解してくれて、その上で販売を肩代わりしてくれる、信頼できる人とつながることが出来れば、生活が成り立つということも、あり得ると思います。



Q.19 有機農業を目指す I ターン就農者が生活するにあたり、重要なことは販売という話でしたが、農作物の生産面においては、どのような問題がありますか。

何であれ、種をまいたら出来るんですよ。(笑)

特に有機農業の場合は、今また、有機農業をサイエンスで牛耳ろうという勢力が幅をきかせています。土の土壌成分がどうなって、この成分が不足しているから、有機肥料ならばこれを入れてという様な。いつも分析しながら科学者のようにやりなさい、というような勢力が、今、猛威をふるっているんです。

そういう技術もたしかにあるんでしょうけれど。でも、それがないと出来ない、というほどのことでもないんです。そういう技術は、「きれいに出来過ぎている有機野菜をたくさん作るため」のサイエンスなんです。

さっき言ったように、理屈からすると、日本の消費者の病的な潔癖主義において、有機農産物の入るところが無いという現状が一番の問題なんです。

変わるべきは消費者であるのに、また生産する側が変わっていこうとしているんです。生産側を、より良い商品を作ろうとする人たちに引っ張っていこうとしている。そういう勢力に対しては、僕は違うと思っているんです。

だから、「種をまけば出来る」ということです。

肥料分が不足しているとか、そのぐらいは作っていたら解ることなんです。基本的には、植物が成長するのに理想的な土壌成分の環境である、「広葉樹林の地面のほんの数センチの表層」というのを、いつも理想として持ちながらそういう土に近づけるような、ちょっとした工夫ぐらいでとめておけば、その上で「種をまけば出来る」ということだと思います。



Q.20 新規就農するにあたり、自己資金は必要ですか。

それは、あるにこしたことは、ないでしょうね。(笑)

だけど「やってみよう」という想いの強弱のほうが重要だと思います。

自己資金ということを考え出した時点で、やめたほうがいいと思います。やっぱり想いが先ですよね。やってみたらやってみたで、失敗して学ぶこともあるでしょうし。

僕は、その土地に行って成功していこうというような、成功願望が強いと難しいと思います。苦難を乗り越えていけないのではないかと思います。



Q.21 成功願望が強くないほうがいいということは、あまり夢を見ないほうがいいということですか。

逆です。夢が勝っているぐらいでいいんじゃないですか。成功願望っていうのは、「計算」ですね。失敗しないように計算ばかり立てる、そういう意味での成功願望です。

成功願望というと誤解を招くので「失敗を恐れる人」は、やめたほうがいいということです。



Q.22 就農するにあたり、農業の勉強・研修は必要だと思いますか。

研修によると思います。

学校のような施設は、そこに行っただけのことは、もちろん学習すると思いますし、それなりの時間をかけただけのことは、あると思います。ただ、実践という意味では、あまり意味が無いケースのほうが多いかなと思います。



Q.23 研修先を選ぶにあたり、注意することは、ありますか。

研修という形じゃなくて、実際そこでやっている渦の中に、「ちょっと入れて」という形の研修のほうが、いいと思います。研修イコール教科書と思わないことです。

ノウハウ世代が増えてきていて、新しいことをするときに、何か教えてくれる「もの」とか、「人」とか、「場所」とかが存在し、その「人」が一から教えてくれるんだという心構えで、研修先というものを捉えると、間違えると思います。

研修先の人によっても、学べることは違うでしょうけれど。まず、その人の話を聞くということでしょうね。その人の経験を聞くことだと思います。

やっぱり、有機農業をやっていくということは、あえて、人がやらないことを、やるわけです。しんどいし、そんなに儲かるような仕事ではない。それを、あえてやるわけじゃないですか。

だから、いくら自分の楽しみとはいえ、やっぱりある種の社会運動だと言い切っていいと思うんです。それは本人が自覚しているかどうかに関わらず。特にものを大量に売って生活をしていこうと思えば、ある種の社会運動になると思います。

とにかく、社会に自分の生き方・考え方を、ぶつけていくわけですから。生産物というのは、生き方・考え方そのものですから。生き方・考え方そのものを社会に出して、お金を受け取る。受け入れてもらうわけですよ。買ってもらうというより、受け入れてもらうわけです。

その社会という相手が、どういう成り立ちで、こういうものを受け入れてくれるようになったのかを学ぶことが、大事だと思うんです。

僕は、どっちかというと、生産の技術を学ぶよりも、そっちのほうが重要じゃないかと思うんです。

有機農業の成り立ちについて深く考えないと、薄っぺらい行動に終わってしまう。自分の考えも、薄っぺらくなるんじゃないかと思います。トレンドで終わってしまうと思うんです。

田舎に行って有機農業を始めた、作物を作った。だけど、さっき僕が言った「一番重要な部分」を学習しないままやっていくと、その人のその行為はトレンドに終わる薄っぺらいものだと思います。そういう人は話を聞いても、軽いですよね。



Q.24 I ターン就農を成功させるために、重要なことは何ですか。

消費者の変革でしょうね。



Q.25 100人の新規就農希望者がいるとすると、結果、100人中何人が農業で生計を立てられると思いますか。

それは、100人の質によりますよね。100人が、僕が言っているような人たちで、優秀な人が100人ならば100人とも成功すると思うし、1人もいなければ100人とも失敗するでしょうし、それはわかりませんね。



Q.26 農業に向いている性格は、ありますか。

有機農業に適している性格と、慣行農業に適している性格は、僕は真反対だと思っているんです。僕自身は、慣行農法に向いている性格かなと思っているんです。(笑)

有機農業は、コツコツと地道にとやっていく人が向いていると思います。
慣行農業は、博打打ち的なタイプが向いているんじゃないですかね。



Q.27 農業を始めるなら、何歳までに始めたらいいと思いますか。

その人の体力年齢も違いますし、それは何とも言えません。





Q.28 有機農業で新規就農した場合、どの程度の経済モデルを見込んでいますか。

わかりませんね。売上なども、その年によって全然違いますし。
1年間で50万円をやっと稼げる年もあれば、300万円くらいいく年もあるかもしれませんし。



Q.29 農業を始めても役に立つ、前職の職業・資格・特技などは、何かありますか。

機械に強いことです。農業以外に1人1芸あればいいと思っています
「半農半 X」という言葉があるんです。半分農業で、半分 X。

つまり、僕みたいな感じです。もう一個の芸で食っていける、両方足して食っていける。有機農業型兼業農家という言い方も出来ると思いますけれど、そういうスキルとか。



Q.30 I ターン就農希望者に、アドバイスはありますか。

うちに来なさい。(笑)ここの門を1回たたけ、みたいな感じかな。

もしそういう人が来たら、僕の考えとか、僕がこれまで経験してきたことを、いっぱいお話ししますよ。そこから、また本人が考えるでしょうし。それだけですね。その人が有機農業をやろうという動機は結構なことですけれど、それがトレンドで終わらないために、動機をより深めてほしいんです。

学習したこと、いろいろな考えを、その動機の裏付けにしてほしいんです。そうすると厚みが出て、本物になっていくかと思うんです。

自分もそうでしたけれど、24~25歳のときに、そういうことを思いついたのですが、そのときの自分は薄っぺらかったと思います。いろんな本があって、自分と考えていることが一緒だというものはありましたが、だけどまだまだ学習不足、経験不足で、思いついたときは、薄っぺらかったと思うんです。


だけど、いろんなことに挑戦したり、いろんな人と会ったり、自分の考えを聞いてもらったり、いろんな人の話を聞いたり、人の行動を見たり、いろんなことを経て、さまざまに感度鋭くやってきたことによって得た経験というものが、最初の僕の思いつきに、すごく厚みを持たせたと思うんです。

だから、次につながる人も、そんなふうになってほしいんです。僕がそういうふうに諸先輩からしてもらったことによって、今の自分があると思うんです。

ですから順番として、若い人が来たらそういうことを、惜しみなく話したいと思います。なので、うちの門を叩けという感じですかね。(笑)

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